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西洋医学と東洋医学の知恵を学ぼう
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処方運用ノート3
麦門冬湯:麦門冬、半夏、人参、甘草、大棗、玄米
小建中湯:桂枝、芍薬、大棗、生姜、甘草、水飴
桂枝湯:桂枝、芍薬、大棗、生姜、甘草
桂枝加芍薬湯:桂枝、芍薬、大棗、生姜、甘草
人参湯 :人参、甘草、白朮、乾生姜
白虎加人参湯:知母、石膏、甘草、玄米、御種人参
麦門冬湯:麦門冬、半夏、人参、甘草、大棗、玄米
ポイント:麦門冬で潤し、半夏で肺気を補い、気道を開くのが主。
人参、大棗、玄米等は、胃気を補う薬だから、結局この処方は、胃が虚して肺虚を伴い、肺
虚に邪が乗じて、気逆咽喉不利等の症状を起したものを治す。
半夏は燥薬で、しかも大量に使うのに、一方では、麦門冬の潤薬があり、又多くの場合、半
夏に配合して、半夏の燥作用の行き過ぎを防ぐと思われる人参の量が少ないなど矛盾だらけ
のようだが、これについては、胃中には、濁飲があって、清飲すなわち津液は返って欠乏し
ている。
濁飲が肺に上がって涎沫となり、津液は少ないうえに濁飲によって流行の道をふさがれるか
ら、肺気が巡らなくなって、症状を起す。
半夏は、その濁飲を去るものであり、人参等は、津液を生ずるものである。大量の麦門冬
は、半夏に対するものと思われる。
運用:大逆上気、咽喉不利(大逆上気:気逆はなはだしということ。顔を赤くして咳き込む)
①激しく咳き込むもの
顔を赤くして咳き込む。大抵は空咳で痰はあまり出ない。
咽喉不利なので、のどに刺激感、異物感、狭扼感、乾燥感など要するに通利しない感覚をとも
なうことが多い。
②上気するもの
咳がなくてもかまわない。脳出血などでののぼせ感。
咽喉部の麻痺による異常感を訴えるものに使うことがある。
③口渇感
咽喉不利を咽喉乾燥感に取り、糖尿病で咽喉乾燥感が強く、水は余り飲みたくないが、のどを
湿すために水を飲まずにいられないような場合に使う
小建中湯:桂枝、芍薬、大棗、生姜、甘草、水飴
ポイント:桂枝加芍薬湯より甘草が多く、水飴が入っているので、裏虚の程度はずっと顕著になってい
る。全身的な虚労状態を呈する。
運用1:全身の疲労状態
①小建中湯の適応を脉で知るには、「それ男子平人、脉大なるを労となす。極虚もまた労とな
す。」(大の脉は、熱によって起るはずなのに、熱のない平人が、その脉を呈するのは矛盾
であって、これは労のためである。極虚の脉とは、沈微細小等の脉を差している。)
②色艶の悪いものは、渇や貧血があり、急に息切れがしたり、動悸がしたりする。
それは、虚労だが、そのうち脉浮のものは、裏虚証の虚労である。
③脉が、虚で沈弦。息が迫り、腹の筋がつれ(短気裏急)、目まい、鼻血、下腹部膨満のあるも
の。
④脉浮大の虚労の病。手足がほてり、だるく、足の力が弱い。盗汗に使うことあり。
まとめると、虚労、裏急、悸、衂、腹中痛み、夢に失精し、四肢痠疼、手足煩熱、咽喉乾燥す
るものは小建中湯これをつかさどる。
運用2:虚証の腹痛に使う(脉弱く、心下部軟弱、時に腹直筋だけ顕著に緊張)
運用3:虚証の黄疸(脉弱、小便自利する虚労性の各種黄疸)
運用4:虚証の消化不良
桂枝湯:桂枝、芍薬、大棗、生姜、甘草
ポイント:衛気を整える桂枝と栄気を整える芍薬を主薬にして、表における栄衛の不和によって起る表
虚熱、又は、気の上衝を治す。
運用1:脉桂枝湯:桂枝、芍薬、大棗、生姜、甘草浮弱で汗が出ている熱病
+首筋の張り=桂枝加葛根湯 +関節の痛み=桂枝附子湯
+下痢=桂枝人参湯
運用2:気の上衝を治す
胸又は頭のほうへ、何かが突き上げてくるような感じ。
脉を打ってくるような、緊張してくるような時に使う。上衝によって起る鼻血、汗っかき。
汗は、目を覚ましているときに出る場合に使い、盗汗(寝汗)には使わない。
運用3:下痢した後で身体が痛むもの
桂枝加芍薬湯:桂枝、芍薬、大棗、生姜、甘草
ポイント:桂枝湯の芍薬の量が倍になっている。
裏虚即ち胃腸のアトニー状態を補力する作用があり、鎮痛もかねている。
運用:虚証すなわちアトニー性の下痢や虚証の腹痛に使う。
太陰病とは虚証の腹満、下痢などを起こす状態である。
腹満、腹痛、下痢は必ずしもことごとく現れるわけではなく、腹痛下痢のこともあれば、腹痛だ
けのこともある。
虚証だから脈は弱い。熱があると浮弱になることもあるが、普通はあまり浮でも沈でもない。
腹証では、自覚的あるいは他覚的に膨満していることが多いが、それが必然的決定的所見と思っ
てはならない。膨満が無く腹痛だけで脈が弱いものに使うことも非常に多い。その際、腹満があ
れば有力な所見となる事は言うまでも無い。
腹痛の部位は決まっておらず、臍部のこともあり下腹部のこともあるが、心下部は割合少ない。
下痢は泥状便、粘液便のことが多く、少なくとも水様便ではない。
また腹満を部分的なものと考えると、限局性の硬結にも使える。実際腹膜の肥厚による硬結は本
方で著明な効を奏する。
但しその場合も、直腹筋の状態、発熱症状等ほかに著変が無く別の処方の適応でないことを確か
める。腹満といっても腹水にはほとんど無効である。
以上の所見に基ついて本方は急性、慢性の腸カタル、同大腸カタル、腹痛、急性慢性虫垂炎、結
核性腹膜炎、移動性盲腸の腹満等にすこぶる多く使う。
人参湯 :人参、甘草、白朮、乾生姜
ポイント:人参、甘草は、補力剤。白朮は、水分停滞を駆除し、乾生姜は温刺激を与えるから、人参湯
の証は、基本的に虚し、停水があり、寒の状態にあるものである事は明らか。
その部位は、①胃部を中心にする場合、②さらに胸部に及ぶ場合、③全身的に虚寒の症状を
呈する場合の3つがある。
運用1:胃腸のアトニー症状
虚証の体質で、貧血冷え性、疲労しやすく、胃症状としては、食欲不振で、胃部が痞える感
じ、あるいは、重苦しい感じ、時には鈍痛。
腸症状として、水様便またはそれに近い泥状便の下痢を起しやすい。
脉は、沈んで弱いことが多く、腹部も腹壁が軟らかく、胃部も軟らかいのが普通だが、自覚的
に痞える感じが強い時は、比較的強く緊張していることがある。
しかし押すと深部には力がない。胃部を押すと気持ちがよいというものもあり、極端な例で
は、胃部を押すと他部における症状が軽快することすらある。
しばしば浸水音を認め、患者は腹が冷えると訴えるものがある。
足が冷え、小便が近く多量である。疲労感、頭重感を訴えるものがある。
胃アトニー、胃下垂、胃腸カタル、胃腸性神経衰弱、肺結核などで頻用される。
運用2:虚寒性の胸痛
虚寒性は、無熱であるか、発熱しても熱感が伴わず、手足も冷え性で貧血に傾き、脉も弱いこ
とで判定する。こういう状態において前胸部、側胸部を問わず任意の場所が痛むもの、但し咳
などはほとんど伴わないときに使う。
病理的には、水が寒によって凝結し停滞すると解釈すると水分の代謝障害と局所貧血があって
起こる知覚障害と推定される。そのために胸痛や知覚障害が起こるのであろう。
肋間神経痛、肋膜炎による側胸痛などに本方を使う機会がある。さらに、四十肩、五十肩など
の肩部における疼痛にも応用できる。
運用3:唾の多いもの
胸中の寒や胃中冷の時にはしばしば涎沫や唾液分泌過多を伴うもので、人参等の場合は、乾生
姜がそれによって奏功する。臨床的には唾液分泌過多症、小児の涎多きもの、つわりで生唾が
多く出るもの、大人でも唾が口にたまり話す時に泡を飛ばすような人、回虫で唾が多いことも
度々ある。
運用4:虚寒性の出血
虚寒性の喀血、吐血、腸出血に人参等を用いて奏功した。
運用5:その他
浮腫に使う。但し、停水症状に着眼したもので、他の多くの浮腫が小便不利なのに対して人参
湯は小便自利が特徴である。貧血性で萎縮腎などのごとく、夜間や冷えると余計悪化する時に
用いる。
心悸亢進に使う。虚寒証の体質で、苓桂朮甘湯のように頭部まで迫らず、心下悸して小便自利
するものによい。たとえば、心臓弁膜症、胃腸性神経衰弱などの神経性心悸亢進など。
白虎加人参湯:知母、石膏、甘草、玄米、御種人参
白虎湯に人参を加えたもの。この方は頻用する。白虎湯証の熱によって、津液枯渇したものに対し、人参をもって滋潤し、血虚を補うのが本方である。
運用1:熱症状と渇を呈するもの
熱は、熱発でも、体温計で測って、体温が上昇していない漢方的熱症状でもよい。
即ち口渇もその一つだし、陽脉(洪、大、滑、数等)、熱感、身熱、心煩、煩燥、小便赤等のど
れかが組み合わされていれば熱症状と判断できる。その中でもっとも主要なのが、脉洪大と煩
渇である。煩渇:煩わしいほどはげしい口渇「桂枝湯を服し、大いに汗いでて後、大いに煩渇
し、解せず、脉洪大なるものは、白虎加人参湯これを主る。」発汗過多のため、胃内の水分が
欠乏し、胃熱を帯びて、煩渇するというのである。
「傷寒、若しくは下して後、7,8日解せず、熱結んで裏にあり、表裏ともに熱し、時々悪風、
大いに渇し、舌上乾燥して煩し、水数升を飲まんと欲するものは、白虎加人参湯之を主る。」
「傷寒、大熱なく、口燥渇、心煩、背微しく悪寒するものは、白虎加人参湯之を主る。」
この心煩は、傷寒に続けて考えていくべきもので、傷寒により寒が体内に侵入し、腎に迫り、
津液を亡わしめるとともに、腎虚により、心熱を生じ、心煩を起させる。
一方、熱は、胃に入り、亡津液とともに、口躁渇を起こす原因になる。
ただ、胃熱だけなら、口渇だが、津液が欠乏しているから、躁が起こるので、それを人参が治
すことになる。
背微悪寒は、陽虚ではなく、内熱による虚躁のため起こったのだというのが定説のようだ。
したがって、表の症状としては、汗出で、悪寒、時々悪風、背微悪寒などがあるが、これら
は、実は裏の変化によって、起こったもので、裏の変化は、胃熱、心熱が主で、渇、口乾舌
躁、心熱などとして現れている。
このことより、本方を応用する対象は、熱病、たとえば流感、肺炎、麻疹、日射病等で、脉洪
大、煩渇、下口唇鮮紅色、乾燥、煩躁などのあるもの。糖尿病で、脉洪大、煩渇、尿利に著し
い増減のないもの。
以上「龍野一雄著 漢方入門講座 より」