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西洋医学と東洋医学の知恵を学ぼう
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処方運用ノート1
大柴胡湯:柴胡、黄芩、半夏、生姜、芍薬、枳実、大棗、大黄
柴胡加竜骨牡蠣湯:柴胡、黄芩、半夏、生姜、人参、茯苓、大棗、桂枝、竜骨、牡蠣、大黄
小柴胡湯:柴胡、黄芩、半夏、生姜、人参、甘草、大棗
柴胡桂枝湯:柴胡、黄芩、半夏、生姜、人参、甘草、大棗、桂枝、芍薬
柴胡桂枝乾姜湯:柴胡、桂枝、黄芩、牡蠣、乾姜、甘草、括蔞根
大柴胡湯:柴胡、黄芩、半夏、生姜、芍薬、枳実、大棗、大黄
ポイント:名称に示すごとく小柴胡湯に似ているが、それよりよりずっと緊張度が強いことは、気実を
開く枳実があるのと、筋緊張を緩める芍薬が入っていること、人参・甘草の補剤を去って、
瀉にもっぱらであることで知られる。
全身的にも、心下部においても緊張が強い(小柴胡湯に比べずっと強い)。
体質的に筋骨たくましく、筋肉には力が盛り上がっている。
顎も角ばって、肉が豊かであり、指も太い。心下部はゆったりと、厚みを持って緊張し、こ
んもりと張っている。
胸脇心下の気実のため、胸脇部の自覚的緊張感、痞塞感、疼痛などが起こり、便秘し、その
気の充塞のゆえに、嘔になったり、下痢になったりする。
特徴:小柴胡湯と同様に肝に関係し、せっかちで、怒りっぽく、癇癪持ちの傾向をあらわすことが多
い。但し、大柴胡湯のほうが症状は強い。
(三黄瀉心湯は、かっとなってもすぐさめてしまい、気が移りやすく感情的なのに対し、大柴胡
湯は、容易に色に表さないが、一度怒れば怒髪天を突くようで、意志的な力が強く、感情を抑制
する。)
運用1:全身的、あるいは、胸脇部の緊張による便秘、嘔吐、下痢、喘を目標にする。
大・小柴胡湯は、嘔と心下部の緊張を共通症状とするが、小柴胡湯の胸脇苦満、胸下痞硬、胸
下満などに比べ、大柴胡湯は、心下急であり、緊張度が強い。
ただ、迷う時は、小柴胡湯から先に使用する。
又、小柴胡湯が少陽病であるのに対し、大柴胡湯は、陽明病にかかっている。
小柴胡湯と大柴胡湯の比較
小柴胡湯 大柴胡湯
筋肉は筋張って緊張 筋肉は厚みを持って緊張
脉は、浮、弦、細微など 脉は、緊、沈緊など
肋骨弓下が緊張 胸下心下の緊張強度
下痢や便秘の傾向は軽い 下痢や便秘の傾向が顕著
神経質で線が細かい感じ、癇が強い 意思的で線が太い、癇癪も爆発的に起す
舌は白苔 舌は白苔または黄苔で厚い
○臨床的範囲は、呼吸器、胃、腸、肝臓、胆嚢、腎臓と胸腹部を中心にする
運用2:熱病において往来寒熱するもの、又は、心下部緊張、便秘を目標にする。
運用3:全身的な筋肉緊張の体質状態を目標にする。
疲れたときの筋肉の緊張による四肢痛、肩こりに使う。動脈硬化、高血圧のいわゆる中風体質
者に使う。
運用4:眼病、耳病に使う。目は肝に属し、耳には胆経の経絡が絡まっている。
柴胡加竜骨牡蠣湯:柴胡、黄芩、半夏、生姜、人参、茯苓、大棗、桂枝、竜骨、牡蠣、大黄
ポイント:桂枝と茯苓、竜骨と牡蠣の組み合わせより、下虚上衝気動がある。
運用1:煩驚の神経症状を目標にする。
煩はわずらわしいこと。なんでも気にする。気を使う。(1つの原因や刺激に対して、いくつ
もの回答反応が出て、しかもそれを判定統一することが出来ずにいる状態。)
驚は、驚くだが、煩驚は、驚きやすいことで、ある原因に対して、過大な反応を示す状態であ
る。
刺激に 対する反応が速くて、感覚的刺激(光、音)に対しては、特に敏感。
電話のベルにはっとしたり、マッチの火にびっくりする。
驚けば、動悸がする。気苦労が多いから、夢見も多く、不眠にもなる。
神経症状から来る種々の症状。慢性病で神経症状のあるものによい。
又、気の上衝と下虚により、小便不利となり、小便に出るべき水分は、上衝に伴い表に浮かん
で、身重になり転側すべからざるにいたる。
転側すべからずとは、自分でも動けないし、人に助けてもらっても動けないものである。
運用2:身重く、転側すべからざるの状態に用いる。
その状態は、浮腫でも麻痺でも、四肢疼痛でも起こりえるから、腎炎、ネフローゼ、肝硬変、
心臓脚気、心悸亢進、腹動などのあるもの、脳溢血で半身不随を起し、或は浮腫を伴い、或は
腹動のあるものに使う。
腹動が、運用のポイントとなる。
小柴胡湯:柴胡、黄芩、半夏、生姜、人参、甘草、大棗
ポイント:柴胡と黄芩が重要。柴胡は、肝機能を調節するらしく、黄芩は、血熱を去る働き。
半夏、人参は、胸脇心下の水をめぐらし、さらに半夏は肺を補い、人参は、脾胃を補う。
小柴胡湯は、胸脇から心下部にかけての充塞を緩解させる作用があり、肝機能の障害を調整
すると思われる。
内胸脇から心下の症状としては、圧迫感、圧重感、痞塞感、胸痛、心痛、腹痛など、
呼吸器症状としては、咳痰、
消化器症状としては、食欲不振、嘔吐、黄疸など、
神経症状としては、心煩、神経質、怒りっぽい、癇癪、潔癖などの傾向を持つ。
従って、応用範囲は、急性伝染性熱病、結核、細菌感染、胸部疾患、消化器疾患、婦人科疾
患、腺病質、神経質等である。
運用1:「傷寒、五六日、中風、往来寒熱、胸脇苦満、黙々として飲食を欲せず、心煩喜嘔す。或は胸
痛煩して嘔せず、或は渇し、或は胸下痞硬し、或は心下悸し、小便利せず、或は渇せず、身に
微寒あり、或は欬す。」
傷寒や中風など急性病で、その熱が悪寒と交互に起り、胸脇部の充塞感として苦満を覚える。
胸がつまっているから食欲は進まない。心臓部が何だかもやもやする。
心煩は、心臓部の煩わしい感じと、精神的に煩う状態すなわち神経質になるのと2つの意味を
持っている。
胸元がつまっていれば、それを出そうとする自然機能からの嘔気が起こる。
嘔すれば、胸中の鬱塞は、上に抜けるから、心煩の程度ですむ。
嘔しなければ、鬱塞は、そのままだから、心煩より広い胸中煩が起ることになる。
以上を基本的症状として用いる。
運用2:側頚部の緊張や疼痛を目標にする。
側胸部の容態に使用するのを上に延長すると側頚部になり、耳やこめかみの部分も又、これに
含まれる。中耳炎、耳鳴、頚部リンパ腺炎などに使用。
運用3:婦人生殖器疾患に使うことがある。(肝の経絡は生殖器にも循り、その疾患に関係)
産褥熱、腎盂炎、炎症性婦人病、睾丸炎、ソケイリンパ腺炎、急性化膿性乳腺炎大黄牡丹皮
湯、桂枝茯苓丸の適応のものは、下腹部の抵抗圧痛があり、嘔や脇下の訴えがないことで鑑別
する。)
運用4:癇が亢ぶるもの。
神経質、肝積持ち、怒りっぽい、潔癖、推理力、理科方面の才能は肝と関係。
柴胡桂枝湯:柴胡、黄芩、半夏、生姜、人参、甘草、大棗、桂枝、芍薬
ポイント:小柴胡湯と桂枝湯の合方
運用1:発熱
「傷寒六七日、発熱微悪寒、支節煩疼、微嘔、心下支結、外証未だ去らざるものは、柴胡桂枝
湯之を主る。」
微悪寒、微嘔は、陽気が乏しくなっているから。
発熱微悪寒、支節煩疼は、表証で、外証未だ除かざるものに該当する。
支節の支は肢と同じで四肢のこと。身体でなく、四肢の関節の痛みに限られている。
(麻黄湯は体痛なのだ!!)
煩が主で、熱で煩わしい感じ、疼は従で、自覚的痛み。
以上の症状は熱によって起ったもので、熱の在る場所は、表と心下である。
微嘔と心下支結は、共に心下の痰飲症状である。支結とは、自覚的にも他覚的にも緊張が認め
られることをいう。
ただし、柴胡桂枝湯の支結はそれほど強くなく、従って、嘔も微嘔となる。
即ち、柴胡桂枝湯の証は表熱があり、心下に血熱と水がある。
この表熱が裏気をして、上昇させようとするわけである。
さて、発汗すると表の水分が汗によって失われ、熱が奪われ、実している気は、脱力され、虚
していれば益虚に陥る。
そうすると、内の熱が動いて、表の生理的な熱をカバーして行かねばならない。
熱は単独では動かず、熱を動かすのは気である。そこで、気も動かねばならなくなる。
かくして、裏の熱と気が動くにつれて、上衝の症状を伴うことがある。微嘔などはそれであ
る。
柴胡桂枝湯は、栄衛を和す働きと、相俟って、上下の津液のめぐりを流通させる働きがある。
上下ばかりでなく、表裏においても流通疏碍を通じることが出来る。
運用2:腹痛
「心腹卒中痛するものを治す。」心下部の疝痛発作を治すという意である。
柴胡桂枝湯の腹痛は、概して、心下部、或は臍部、稀には側腹部に起り、これは心下支結の応
用で、心下部全体がピンと緊張していることもあり、直腹だけが目立って緊張していることも
ある。
運用3:神経症状
小柴胡湯を癇とし、桂枝湯を上衝とすると、柴胡桂枝湯は、興奮性の神経症状の強いものに使
える。癇、神経質、神経症、ヒステリーなどと呼ばれるものに使える。
柴胡桂枝乾姜湯:柴胡、桂枝、黄芩、牡蠣、乾姜、甘草、括蔞根
ポイント:小柴胡湯に似て桂枝があるから気の上衝があり、乾姜があるから裏寒の状態があり、半夏が
なく括蔞根があるから水分の代謝障碍は乾燥状態で、牡蠣があるから下虚腹動上衝小便不利
があることが考えられる。
部位は小柴胡湯でも、気が下虚し熱により気上衝し上部に仮熱を生じ、体液は減少するが、
熱と上衝につれて上部に洩れる状態である。
運用:胸脇微結し、頭汗、口渇、腹動する。
「傷寒五六日、已に汗を発し、而して復た之を下す。胸脇満、微結、小便利せず、渇して嘔せ
ず、ただ頭汗出で、往来寒熱、心煩するものはこれ未だ解せざるなり。」(傷寒論太陽病下編)
汗を発すれば表の実はとれているか、あるいは虚に陥っているかであり、下した後は裏実がとれ
ているかあるいは裏虚に陥っているかである。この場合は、表虚と裏寒を兼ねてただ中部胸脇だ
けが微結しているのだ。
臨床的には、小柴胡湯とほぼ同様の病名に対して使われる。
ただ、小柴胡湯よりは虚して裏寒上衝がある場合だが、その内でも多く現れる症状は疲労性で脉
が弱く、皮膚が乾き、頭汗、口渇、腹動、軽咳、食欲不振である。
これらの症状は全部そろうことを要せず、ただその状態と若干の症状の組み合わせがありさえす
ればよい。